天地明察冲方丁
今のところ、問題3つ目の回答が出たところまで読んだ。
ストーリー、文章は素晴らしいので買って損はない。
ただ、肝心の算術の問題周りの出来が酷い(今読んでるのは第六版)ので、そこが気になると話の筋が台無しになる。詳しい人に監修してもらえばよかったのにと思う。
調べたら、囲碁と暦の描写箇所にも誤りがあったそうだけど、自分はそこは気にならないで楽しく読めた。
算術部分もスルー出来れば楽しめるかと。
以下少し文句がてらネタばれ。
 
 
・一問目。これは良く出来てる。
自分レベルで暗算で10分くらいで出来たので、高校受験する中学生とかなら1分以内に解いてもおかしくない。これを一瞥で回答できる作中の人物の凄さも測れる、適度な難度だと思う。
ただ、主人公の問題へのアプローチ方法がそりゃないだろと思わせる。
・二問目。これは酷い。
問題のおかしさは作中で理由を説明されるけど、無理がある。算術の素養がある人間なら絶対にあの図にあの数値はあてはめないし、問題が変なことは天才ならずともそれこそ一瞥で分かる。
・三問目。これも酷い。
二問目と違って、優れた問題として提示されるが、問題文が確実に間違っている。作中で、主人公が念入りに吟味した描写があるが、実際出版される前にこの問題を解こうとした人は、作者編集者はじめ誰もいまい。
作中で主人公憧れの人物が、この問題を見事に解答するが、そっちのほうが幻なんじゃないかと思える。この問題がダメだとほんと今までなんだったのよといいたくなる。
 
問題の修正は作者、編集者の恥で済むけど、このまま誤りを放置するのは作中の人物を永遠に傷つけることになるので、お早めに修正をお願いしたい。

追記
読了した。やはり素晴らしい小説だった。
この方の作品ははじめて読んだのだけど、主要人物はタイプは違えど皆好人物で、「悪役」的な存在は、問題にならないような小物か無名の人物だ。そのためこの小説では、物語に必須の障害は「人」ではなく、自然や真理といったものである。

先に「算術部分はスルー推奨」と書いたが、上に触れてない最後の問題(第四問目)だけは、「なんじゃこれ」と思える程度には引っかかったほうが効果的。そもそも、スルーしなくて良い程度に問題を改善すべきではあるのだけど、考えてみるとフィクションの重要要素として、数学の問題を扱うことには特有のリスクがあることに気づく。時代小説にはありがちではあるが、例えば作中で歴史考証が間違っていたりしても、演出上の都合であるとか、「だってフィクションだし」という言い訳を使うことは可能だ。しかし、この小説のように具体的に問題を提出してしまうと、誤りがあった場合言い訳が効かない。解けるかどうかは解釈や演出の問題ではないのだから。
ただ、この小説における算術の扱いは、以下に書くように挑戦的なものがあって、問題の選択や作成は相当困難であったはずだ。(したがって修正も容易くはないだろう)
前提として、図付きの問題は4つ出てくるが、全て30/7(文中で語られるが4.5はこの数の近似)という数が絡んでくる。一ヶ月と一週間の日数の比と考えていいはずだ。暦と数がテーマの物語にふさわしい。
その数を扱いつつ、ストーリー上、次のような問題である必要がある。
・一問目:一瞥では到底解けない程度の難度。
・二問目:解けそうに思えるが、良く考えると実は解けない。
・三問目:難しくてしかも美しい。
・四問目:二問目を連想させるような問題で、一瞥で解けないと分かる
つまり、「難易度」「美しさ」「30/7という数」という縛りがある。書くのは簡単だが、実際に問題を構成する困難さは如何ばかりか。
小説の中で数学を扱う際、「数学ガール」のように数理の説明自体がメインであるものでもなければ、この「天地明察」のように具体的に問題を出し、しかも問題の構成自体が演出であるというものには、自分はお目にかかったことがない。そういう意味で、確かに問題部分に構成ミスはあるが、作品中の主人公の失敗と同様、面白い失敗だと感じた。やはり、修正した「完全版」を読んでみたい。