数学ガール

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何周遅れなんだって感じですが、読了しました。
数学ガール感想リンク
読者の声

感想

自分の第一印象は「すごく練り込まれている」
数式の出し方、章立ての順番、そして数学に関する哲学や、陥りがちな落とし穴などが絶妙に配置されています。「僕」がたまにするポカミスですら適度な頻度のように感じます。
数学力では、ミルカさん>「僕」>テトラちゃんという順番ですが、語り手が導き導かれという立場なので、双方の経験を糧に成長する姿が面白いと思います。*1
また、テトラちゃんの「わからなさ」が好ましい物として描かれているのも印象的です。わからないこと自体は悪いことではないばかりか、「あっさり分かってしまわない」という能力は理系の学問では時として長所になります。
個人的に、この内容を高校時代に読んで理解できたかどうかはまったく自身がない*2のですが、上記の感想リンクを読むと、それでも楽しめることが伝わってきます。

気になった点

三点ほど気になった点があります。最後以外は「なぜこれに触れられていないんだろう」という点です。というより参考文献のリストから考えると、意図的にはしょっているのはほとんど明らかなのですが、素の意図が分からない、というか。

離散指数関数のテイラー展開

離散指数関数2^nの自然なテイラー展開が美しくて\Sigma_k{n^{\underline{k}}\over{k!}}と書けますが、実は
{n^{\underline{k}}\over{k!}} = nCk(二項係数)
なので和はきっちり\Sigma_{k}^{n}nCk =(1+1)^n=2^nになります。
このように美しい関係があり、章立ても離散指数関数を扱った直後に二項係数を扱うのに、この関係に触れられていないのはなぜでしょう?インタビューによると仕掛けを仕込んでらっしゃるそうなのでそれなのでしょうか。

オイラーの五角数定理

「僕」が分割数の母関数までもとめたにもかかわらず答えに到達出来なくて凹むシーンがあります。
ここからミルカさん*3の導きで五角数定理に到達するかと思いきやそのまま。なんかかわいそうになりました。章の最後に、より難しい表示を紹介しているにもかかわらず、五角数定理に触れられないというのも、上と同様明らかなスルーです。

離散対数関数

離散対数関数をミルカさんに示唆される場面で、彼女らしからぬ物言いがあります。
「指数関数の『逆関数』」という部分です。ここで自分はこんがらがったのですが、差分により求められる離散対数関数である調和級数の部分和は、離散指数関数の逆関数にはなりません。かといってうまい定義の仕方もまだ思いついていません。

この本を楽しめた人は

プロジェクトオイラーおすすめ。特にプログラマなら。
私も同じidで登録してます。

*1:マリみてのスールシステム的な

*2:登場人物賢すぎ。ミルカさんや主人公はもとより、分からない人代表みたいなキャラのテトラちゃんですら、現実にいたら、そこら辺の進学校でもトップクラスの数学力でしょう。

*3:オイラーを師と仰ぐミルカさんは確実に知っているでしょう